大会新記録続々更新!参加選手300名超が白熱する日本知的障害者選手権新春水泳大会に密着
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トピックス2025年04月7日
第8回日本知的障害者選手権新春水泳競技大会(WPS公認大会)が2025/1/13(月・祝)に行われました。
一般社団法人日本知的障害者水泳連盟(以下、日本知的障害者水泳連盟)が開催する本国内大会で千葉県国際総合水泳場では多数の選手が自身の新たな可能性に向けて励んでいました。
パラリンピックでも拡大しつつあるスポーツ、水泳のさらなる振興に向けて
日本知的障害者水泳連盟は、知的障がいのある人々が社会の中で活躍する場を作ることを目的に、約30年前の1999年に設立されました。当時はまだ「精神薄弱」と呼ばれることもあり、社会的な認知が低かった知的障がい者が、自らの可能性を発揮できる環境を整えることが課題でした。
今回取材した、連盟の理事兼運営委員長の谷口さんによれば、連盟の設立は、前副会長の及川栄子さん達が「知的障がいのある子どもたちも成長できる場を提供したい」と強く願ったことがきっかけだそうです。「歩みはゆっくりでも、学べば成長する。その可能性を信じて支援を続けてきた結果が、現在の活動に繋がっています」と語ります。
現在、連盟は年に3回の主催大会を運営するほか、小学校での水泳授業の支援や初心者向けの水泳教室の開催、さらには地域での講習会を通じた普及活動にも力を入れています。
水泳は、水の中にいるときの解放感や、全身を使う運動のバランスの良さが、知的障がいのある人々にとって非常に適したスポーツだと言われています。大会でも長年競技を継続している選手の多さが目立ちました。
多種目参加で新たな自分に挑戦。さらなる記録に向け奮闘する選手たちにインタビュー
小学校1年生からスポーツをやりたいと水泳を始め、知的障がい者のクラスに移ってから自分を出せるようになったそうです。地元のクラブでの練習や陸上トレーニングなどを重ね、今大会でもベストを尽くしました。「自分が納得いく成績を残せるように頑張りたい。今後は世界大会に出場し、トップ選手を目指したい」と夢を語ります。お母様からは「日本や世界で活躍できるように、辛い時も諦めず頑張ってほしい。できるサポートをしていきたい」とエールが送られています。
小学校1年生の頃から喘息改善をきっかけに水泳を始めた佐藤選手は、小学校高学年頃から競技に夢中になったそうです。年末年始の強化合宿や週6日の練習を経て、今大会では個人メドレーで3位に入賞しました。今後も蹴りに持ち味のある得意の平泳ぎを活かし、「社会人選手権で入賞を目指し、全国で戦える選手になりたい」と語ります。ご家族からは「社会人になってからも続けたいと本人も言っているので、これからも続けて頑張ってほしい」と温かい言葉が寄せられています。
小学校2年生から支援学校の先生の勧めで水泳を始め、競技に参加する中で得意のバタフライに磨きをかけてきた牧山選手。特に手のかきに強みがあるそうです。元日も大会に向けて準備をした結果、見事銀メダルを獲得しました。しかし、大会新記録を出せなかったことは悔しいと語ります。「次の目標は3年後のロサンゼルス大会。記録を更新して世界で活躍したい」と意気込む牧山選手。ご家族も「真摯に向き合いながら練習にこれからも励んでほしい」と全面的に支えています。
水泳は健康のために7歳から始め、現在も区民プールで毎日練習を欠かさず行っているという森下選手。特に後半の粘り強さが持ち味で、今回の大会に向けては長距離を泳ぐ練習に力を入れたと言います。800m自由形でベストタイムを記録し、Virtus Global Games(バータス)の世界新記録まであと3秒に迫りました。「次は絶対に記録を縮めたい」と目標を掲げています。お母様は「努力あるのみ。これからも頑張ってほしい」と語っています。
競技会という発表の場が自己表現の成長にもつながる
「親御さんから『水に潜っているときの子どもが一番良い顔をしている』という声をよく聞きます」と、谷口さんは笑顔で語ります。水泳は、全身運動による身体的成長や、喘息を持つ子が健康のために始めることが多いようです。連盟が主催する競技会が発表の場、つまり自己表現の場となり、成功体験を積むことで自信を深めていくことも大きなメリットと語ります。
一方で、競技人口の少なさ、特に女性選手の育成が急務だといいます。「現在、強化指定選手が29名、育成指定選手が16名ですが、男女比でみると女性は非常に少ない状況です。女性選手の発掘と育成を進める必要があります」。また、実施される競技種目や、障がい特有の身体能力の差に応じた基準作りなど、運営面でも課題は多いようです。
今大会の見どころ、若い年代の選手の台頭
今回の水泳競技大会は国内最高峰の「日本選手権」とは異なり、新たなチャレンジができる大会として位置づけられています。参加標準記録を1種目クリアしていれば、クリアしていない種目にも出場ができます。そのことで、新たな種目や短水路から長水路への移行を目指す選手たちが挑戦しやすいように工夫がされています。注目の若手選手たちは現在、高校生から社会人1〜2年目の世代だそう。「この年代の選手たちが、次のパラリンピックや国際大会での飛躍を目指しています。特に若い選手の成長に期待したいです」と谷口さん。
一般社団法人日本知的障害者水泳連盟
1999年設立。日本知的障害者水泳選手権大会25m/50mなど国内大会の開催や、Virtus世界水泳選手権大会やパラリンピックなどの国際大会へ代表選手を派遣している。知的障害者水泳の普及・振興に向け活動を広げている。
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